JLCS ニュースレター No.11. News Letter発行のお知らせ2. 2003年虹彩賞、Goodby賞受賞者のご紹介

2. 2003年虹彩賞、Goodby賞受賞者のご紹介

10月14日から17日まで青森で液晶討論会が開催され、若手研究者のポスター発表の中から下記の方々が虹彩賞を受賞されました。また、今年はHull大学のJ. W. Goodby先生が講演のために来日されたことから、特別にGoodby賞が設けられ、下記の方が彼の液晶テクスチャーアートを贈呈されました。おめでとうございました。受賞された方々の研究と受賞の感想をご紹介いたします。

虹彩賞
大田康之さん(長岡技術科学大学工学部)
受賞論文 PA02
題目 液晶配向用表面レリーフグレーティング上の方位角アンカリング強度測定
概要

近年、ZBDなど表面レリーフグレーティングを用いた表示モードが提案されてきている。表面レリーフグレーティングが液晶に与える配向やアンカリング強度を詳細に解明することは重要である。本研究ではmmオーダーの比較的大きな表面レリーフグレーティングの方位角アンカリング強度に注目した。理論の面ではBerremanの溝理論から値を導いた。その値はBerremanの式と、有限要素法の二通りで求め比較を行った。実験面ではトルクバランス法を用いて方位角アンカリング強度を測定した。その結果をfig.1に示す。結果より、二通りの理論値はグレーティングの高さが高い領域において若干ずれるものの、ほぼ一致することが分かった。また実験結果も理論とよく一致した。以上より、Berremanの理論を実験的に証明することができた。また、mmオーダーの比較的大きいグレーティングの方位角アンカリング強度もBerremanの理論で見積もれることが分かった。
感想
この度、私を虹彩賞の受賞者に選んで頂き、本当に嬉しく思っています。今回の液晶討論会が私自身初めての学会で、ポスターセッションが始まる前から緊張していました。特に他の方のポスターが非常に綺麗で、少し自信を無くしていましたが、開き直って堂々と発表を行えたのがよかったと思います。今後、この受賞をきっかけに、大きな自信を持って研究に取り組んでいきたいと思っています。

虹彩賞
原田晴夫さん(大阪府立大学)
受賞論文 PA23
題目 等方相中のスメクティックA液晶ドメインの電界印加効果
概要

等方相中のスメクティックA相と生体膜は分子配列が層構造を有するためマクロなスケールでも類似の形態を呈する。この類似性は電界応答においても見出されると期待される。生体膜の電界応答の制御は重要な技術であるため、その機構に関する理解を深めるためにもスメクティックA相の電界応答を調べることは重要な課題である。本報告において、等方相中のスメクティックA相に電界を印加することにより、生体膜の電界応答と類似の現象を見出した。液晶セル基板面に対して平行方向に電界を印加すると、スメクティックAドメインは電界方向と平行方向に数珠状のドメインを形成することを見出した。これはYeast cellsにおいても観測されるパールチェーンフォーメーションと類似の現象である。また、基板面に対して垂直方向に電界を印加すると、スメクティックAドメインのある部分から突き出した変形が見られる。これは電界印加時のリポソームの動的変形と類似の現象である。一方生体膜と類似の現象に加え、スメクティックA相に固有の多角変形や回転現象等の興味深い現象も見出した。以上のように、スメクティックA相の電界応答を実験的に明らかにし生体膜の電界応答において、類似の現象を見出すことができた。
感想
直接応用につながらない発表にもかかわらず虹彩賞に選んでいただき、光栄に存じます。初参加で受賞できたことは自信にもなりました。生体膜とスメクティックA液晶は分子配列が層構造を有するためマクロなスケールでみて類似の形態を呈します。この類似性は電界応答においても見出されるだろうと考え実験観察を行いましたが、生体膜と類似の出現に加え、スメクティックA相に固有の多角変形や回転現象等の興味深い現象も見出しました。今後はこれらの現象の理解に努めていきたいと思います。

虹彩賞
籔内一博さん(東京大学)
受賞論文 PB17
題目 ディスコチック液晶と低分子ゲル化剤の複合系における相分離構造と機能
概要

低分子ゲル化剤は、溶媒中で繊維状の分子集合体からなるネットワークを形成することでゲルを形成する。当研究室では、ゲル化の溶媒として液晶を用いると、液晶の異方性や動的特性を反映した機能性分子複合材料である「液晶ゲル」が得られることを既に報告している。この液晶ゲルの性質は、液晶とゲル化剤の繊維状分子集合体が形成する相分離構造に大きく左右されるため、構成成分の選択が重要である。本研究では、ホール移動により光導電性を示すディスコチック液晶であるトリフェニレン誘導体と当研究室で開発した芳香族ウレアおよびアミド型ゲル化剤からなる複合体を作製した。その相分離構造を偏光顕微鏡や電子顕微鏡観察により調べたところ、ゲル化剤のコアの芳香環や水素結合部位の構造により、様々な構造が得られることがわかった。例えば、ピリジンコアのアミド型ゲル化剤は写真に示すような繊維状集合体のネットワークを形成する。また、ディスコチック液晶のカラム中における分子のスタッキングの秩序もゲル化剤により異なることがX線回折測定より示された。これらの相分離構造が、得られた複合体のホール輸送特性に与える影響を考察した。
感想
内容、デザインともに優れたポスターが数多くある中で、今回虹彩賞をいただけたことは、大変光栄です。全く予想していなかった事態(!)でしたので、受賞を知らされた時は喜ぶ前に驚きでした。そして、懇親会で池田先生よりスピーチのご指名を受けた時に2度目の驚き(心の準備ができておりませんでしたので…)。驚いてばかりもいられませんので、今度は皆様を驚かせるような研究成果を出せるよう頑張っていきたいと思います。

虹彩賞
山口章久さん(弘前大学)
受賞論文 PB23
題目 新規λ型液晶の分子構造と相転移挙動
概要

本研究では新規λ型分子を設計した。その分子集合において新規な分子組織化が生ずると期待される。図のλ型化合物1は、偏光顕微鏡観察及びDSC測定においてSmA-SmA転移を示した。二次元X線回折測定から低温側のSmA相は、異なる三つの層間隔54.5A、39.8A、23.1Aを持つincommensurate SmA相であることがわかった。
化合物1のシアノビフェニル基の代わりにオクチルフェニルピリミジン基を導入した化合物2は、相系列Iso-N-SmX-SmY-SmZ-Crを示した。顕微鏡観察ではN相のシュリーレン組織を維持したままSmX相へと転移しているのが観察された。顕微鏡観察からSmX相は一軸性、SmYとSmZ相は二軸性であることがわかった。X線回折測定では、いずれのSm相も低角側に二つのピークが観察され、SmX相では非常にブロードなピークで弱いスメクチック層構造を持つ事が示唆された。
化合物1、2のフェニルピリミジンの向きを系統的に変えた化合物でも新規な液晶相の発現が示唆された。
このように我々の設計したλ型化合物に適当な分子修飾を行う事により、新規な秩序をもつ液晶相の発現が期待される。
感想
今回は地元青森での討論会開催のうえ、このような賞をまでいただき喜びもひとしおです。今回のポスターディスカッションで得たものをこれからの研究に生かして行きたいと思っております。また、今回の受賞に甘んじることなく、今後もさらなる飛躍をめざし研究に励みたいとおもっております。ありがとうございました。

虹彩賞
内田江美さん(姫路大学)
受賞論文 PD10
題目 アゾベンゼン含有高分子液晶フィルムの安定な偏光ホログラム
概要

これまで、アゾベンゼンは光によって分子配向を制御できる材料として多く研究されてきた。良く知られている従来の光配向プロセスは、直線偏光の照射のよるアゾベンゼンの軸選択的なE-Z異性化に基づいている。
本研究では、新しい光配向プロセスとして非共鳴領域光であるHe-Neレーザー(633nm)を用いたアゾベンゼン含有高分子液晶薄膜の異なる波長の光照射による光配向挙動について検討した。即ち、無偏光 365nm光によりZ体を形成し、その後の直線偏光He-NeレーザーによるZ体の軸選択的光反応と続く熱処理によって照射の偏光電界に平行方向に高度な一軸配向を得た。この光配向ではほとんど吸収のない633nm光を用いているため、薄膜全体で反応がおきるので従来の光配向に比べ配向度は高くなり、厚膜でも配向が誘起できた。また、偏光電界に平行に配向させることができるため照射角度を変えることにより三次元的な配向も誘起できた。 さらに、この配向プロセスを用いて、He-Neレーザーによる偏光ホログラフィーを行ったところ、初めて室温で安定な“純粋な”偏光回折格子が得られた。この回折格子は、表面凹凸形成がなく、高い1次回折光効率(30%以上)を示し、書き換えが可能であった。
感想
昨年のポスター発表では勉強不足な面があることがよくわかりました。そしてこの一年間、素晴らしい研究をすることができ、また内容も理解することができました。この度、この研究成果がうまく伝えることができるか不安でしたが、虹彩賞という素晴らしい賞を頂くことができ、皆様に理解して頂けたということでとてもうれしく思っております。このことが自信にも繋がり、さらに頑張っていきたいと思っています。

J. W. Goodby賞
山内貴恵さん(京都大学工学部)
受賞論文 PB15
題目 長鎖を有するビリン錯体の合成
概要

ビリンジオン亜鉛錯体 (Figure1) は、末端の酸素原子間の反発によりらせん骨格をとっています。溶液中では右巻きと左巻きが相互変換を起こしてラセミ化していますが、光学活性なゲスト分子を加えることにより、らせん不斉が誘起されることが報告されています。また、らせん分子同士が平行に並んだ二量体では、片方のらせん分子に光学活性ゲストが結合した時に、もう片方のらせん分子の構造も制御されるという興味深い挙動が報告されています。
このようならせん型分子を並べることによって、分子間相互作用に基づいた高度ならせん構造制御の実現が期待できます。そこで、我々はらせん型分子を効率よく集積化する手段として、液晶に着目しました。液晶にすることで、自己組織化による自発的な分子配向と構造の柔軟性が期待され、分子間相互作用による長距離秩序の実現が可能であると考えられます。このような背景から、液晶性を有するビリンジオン誘導体の合成をめざしています。
感想
今回、Goodby賞を賜り、大変光栄に思います。受賞の対象となった研究は動的分子認識を液晶で行うというもので、まだ実現できていませんが、将来的には分子間相互作用の伝播とそのダイナミクスを解明したいと考えています。私の所属する研究室は最近液晶を始めたところですが、その分既成概念に捉われない研究をしたいと思います。この受賞を励みにいっそう精進しますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。